オタクの聖地秋葉に相席屋ついにオープン!趣味に人生を捧げた孤独な若者に手を差し伸べる救世主となるか!?その実像を探るため、オタクに片足突っ込んだ女子大生がそのオープン初日に潜入を試みた。
A○B劇場隣接のショップでウィンドウショッピングを済まし準備運動は完璧。近代的な町並みにオタルックの男性たちが映える駅前を背に歩く事数分、仕事上がりのサラリーマンやけなげに営業活動に励むメイドたちが歩道を闊歩するカオスな光景が目に入ってくる。
高まってきたぜ……!!
駅から徒歩5分程度といったところだろうか、到着したのはよくあるスタイリッシュなビルである。「ここが本日の戦場か」私は小さくひとりごちた。ちなみに相席屋はツーマンセルからの参戦が基本ルール。今回ご一緒頂いたのは風になびくロングのワンレンヘアーが素敵な若きフリーランス編集者のお姉様である。秋葉原駅という初歩ダンジョンでも迷子になってしまうような彼女は本来このような場所には縁の無い素敵女子だ。「アキバの相席屋」というやばそうな響きしかしない戦場において襲い来るカルチャーショックから彼女をお守りするのも役目と考え、私は奮い立っていた。いざ出陣。
オタクの聖地であると同時にビジネスの集積地でもある秋葉原らしく、同ビルにはお高そうなお料理屋さんも入っているようだ。エレベーターの上昇とともに緊張のボルテージもうなぎ上り。「チーン」という軽妙な音と共に戦場のゲートが開いた。
そして目に飛び込んできた金!金!金づくめの内装!金色と黒をメインに色味を抑えた雰囲気ながら、天井の幾何学文様や豪奢なシャンデリア、さらに立体的に配置された客席が非現実感を演出している。後から「現代風遊郭」がテーマだと聞いてなるほど納得の凝った内装だ。
オープン初日ということで初々しい感じの店員さんがシステムを説明してくれる。秋葉原店はバイキング制らしく、食べ放題の料理や駄菓子がずらりと並ぶカウンターを横目に、段差を一歩上ったところにある円卓に通された。よく見れば客席と客席は小高いアートな照明で仕切られており、他の席からは容易に見えないようになっていた。さすが電飾機器の名産地(?)、非常に明るい。さらに店内の壁は鏡ばりになっているため、二倍まばゆい。
と、ここまでゴージャスな内装に度肝を抜かれていた私だったが、ふいに「アキバの相席屋がオタクの社交場となりうるか」をサーチしにきたことを思い出した。気を取り直して客層のチェックだ。早い時間は女性客の方が多いという相席屋のご多分に漏れず、次々と女性たちが入場してくる。何か……違和感が……。この感じ……。そうだ!!!オタクっぽくないんだ!!!!
そう、彼女らはおよそアキバのイメージとはかけ離れた、キレイなオフィスできびきび働いていそうな、ヒールをカツカツ鳴らしながら歩きそうな、そもそも相席屋よりもスタバに生息していそうな、いけてる女「イケジョ」の群れだったのだ。こいつはたまげた。他の相席屋と同様に店員さんも皆美しいし、もしかして今日秋葉原の美女密集率が一番高いのってこの相席屋なんじゃないの?
まあ待て、オタクの諸君。というか私。心のブラウザを「そっとじ」するにはまだ早い。男性陣はこってこてのアキバ系男子が来てくれるかもしれないじゃない。期待のドラムロールが胸中で鳴り響く中、店員さんからお声がかかる。
店員さん「男性がご来店されましたので、これから相席となります〜」
私たち「「は〜〜い」」
ドキドキッッッ!!一体どうなってしまうんだッッ!!
男性たち「「「こんばんは〜」」」
私「!」
お相手はスーツを来た3人組だった。私が心構えていたいかにもコミケ帰りといった様相ではないようだったが、仕事帰りらしくビシッとスーツで決めていた。秋葉原エ……。
店員さん「相席屋で〜〜〜」
我々「「かんぱーーーーい!!」」
相席屋恒例のかけ声は予想通りだが、今や戦況は完全に私が描いた図面から外れている。ここで互いに簡単な自己紹介。男性陣は20代の私たちより一回り年上に見え、会社の同僚という関係じゃないかと私は予想した。
「たかし(仮名)でーす!」
「たかしジュニアでーす!」
「たかしシニアでーす!」
まさかの親子三代という関係だったようだ。
というのは冗談だが、初対面同士が同席する相席屋では最初の自己紹介で本名を明かさずジョークで濁すというのはもはや様式美だ(※私調べ)。相席屋初参戦の皆さんは相手の方が本名以外を名乗ったとしても憤る必要はない。くすっと笑って会話の足がかりにしてしまおう。
怒濤の新展開に茫然自失の私をよそに、お兄さんたちは私の隣の素敵女子に猛然とアタックをはじめていた。こうしてはいられない、と私も巻き返しを図る。私のデッキには女子大生という起死回生のカードがあるのだ。
私「女子大生で〜就活中なんです〜〜」
たかしシニア「こういうお店くるような子は、きっと面接でも上手くしゃべれるよ〜。ところで君っていかにもお上品なお嬢様ってかんじがするね〜」
私「え〜〜っ、そうですか〜〜〜!?きゅるんっ」
その後もなごやかに宴は進行し、懐が温かそうなお兄さんたちはトータル2時間ほどの利用だった。相席屋は30分1500円で10分ごとに500円を男性に課されるシステムなので、通常は最初の30分で退席する男性が多いようだ。
女性はもちろん無料なので、私は今回2時間という時間を対価にお兄さんからの就活アドバイスと深窓のお嬢様属性をゲットするという結果になった。欲を言えばオタク趣味に造詣の深い素敵なカレとお知り合いになりたかったが、お金を使わずに楽しい時間を過ごせたのだから結果オーライというものだ。
とはいえ、これは相席屋秋葉原店オープン初日の記録である。今後時間の経過とともに秋葉原の風土に溶け込み、他店とは異なる独自の雰囲気を持つ可能性は十分にあるので、目が離せないところだ。そのため、「オレらの聖地に得体の知れない店ができたらしい」と遠巻きに見ている秋葉原ネイティブの皆さんも、コミケに参加する時のような行動力で一度相席屋を訪れてみてはいかがだろうか。相席屋では残念ながらエッチな小冊子は取り扱っていないが、ここにしかない人と人との出会いが得られるはずである。